お稲荷様

「いたこ[#「いたこ」に傍点]ッて婆だべ。いたこ婆ッてんだべ。――いたこ婆さ上げるんだッて、山利で油揚ばこしらえてたど。」「お稲荷様だべ。」「お稲荷様ッて狐だべ。んだべ!」――由三が急に大きな声を出した。「ん。」「んだべ、なア!」――独り合点して、「勝ところの芳《よし》な、犬ばつれて山利さ遊びに行《え》ったら、とオても怒られたど。」「そうよ。――勿体ない!」「山利の母な、お父ば可哀相だって、眼ば真赤にして泣いてたど。」「んだべ、んだべ、可哀相に!」「な、兄ちゃ、狐……」――瞬間、炉の火がパチパチッと勢いよくハネ飛んだ。それが由三の小さいひょうたん[#「ひょうたん」に傍点]形のチンポ[#「チンポ」に傍点]へ飛んだ。「熱ッ、熱ッ、熱ッ※[#感嘆符二つ、1-8-75]……」 由三はいきなり絵本を投げ飛ばすと、後へひっくりかえって、着物の前をバタバタとほろった。泣き声を出した。「熱ッ、熱ッ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」「ホラ、見れ! そったらもの向けてるから、火の神様に罰が当ったんだ。馬鹿!」 姉のお恵が、物差しで自分の背中をかきながら、――「その端《さき》なくなってしまえば、ええんだ。」と、ひやかした。「ええッ、糞ッ! 姉の白首《ごけ》!」 ベソ[#「ベソ」に傍点]をかきながら、由三が喰ってかかった。聞いたことのない悪態口に、皆思わず由三をみた。 母親がいきなり、由三の小さい固い頭を、平手でバチバチなぐりつけた。

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