「地主代理」

 七之助は聞きながら、一つ、一つ武田の演説を滑稽にひやかして、揚足をとった。「武田の作ちゃも偉ぐなったもんだな。――悪たれ[#「悪たれ」に傍点]だったけ。」 健の前に坐っている小作だった。――「余ッ程、勉学したんだべ。」 七之助が「勉学」という言葉で、思わず、プウッ! とふき出してしまった。「大した勉学[#「勉学」に傍点]だ。――※[#「┐<△」、屋号を示す記号、266-下-17]と地主さん喜ぶべ。円満円満、天下泰平。」 健とちがって、前から七之助にはそういう処がある。洒落《しゃれ》やひやかしが、百姓らしくなく、気持のいい程切れた。

     「地主代理」

 地主代理は思いがけない程子供らしい、細い声を出した。それに話しながら、何かすると、ひょいひょい鼻の側に手を上げた。それが百姓達には妙に「人物」を軽く見させた。七之助は、そら七ツ、そら十一だ、そら又、……と、数えて笑わせた。――地主と小作人は「親と子」というが、そんなに離れたものでなしに、「頭脳と手」位に緊密なもので、お互がキッチリ働いて行かなければ、この日本を養って行くべき大切な米が出来なくなってしまう。他所《よそ》では此頃よく「小作争議」のような不祥事を惹き起しているが、この村だけ[#「この村だけ」に傍点]はそんな事のないように、その意味でだけでも、この新に出来た組合が大いに働いて貰いたい。……地主代理は時々途中筋道をなくして、ウロウロしながら、そんな事を云った。「分りました。んだら、もう少し小作料ば負けて貰いたいもんですなア――。」 誰かが滑稽に云った。――皆後を振りむいて、どッと笑った。

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